肉を噛みたい。

おもにいぬになりたいひとのしをかいてます。

短篇

いつかのラブレターは燃やしてしまった

いつかのラブレターは燃やしてしまった あんなに想いを込めて書いたのに 燃やしてしまった 耐えられなかったんだと思う 自分の想いの重さに 自分の調子の良さに 一生 というの時間の長さに ビビって引っ込めた左手 覚悟が決まらない それでも 絶えず貴方を思…

夜明の女

働き蟻の蠢く彼は誰時、工場の鈍色の灯りと白い白い煙に炙り出された美しくも不気味な空には、鋭い三日月が心許なさそうに微笑んでいた。 突然、心を掴まれた気がした。 なぜだか、鋭いあの三日月が寂しそうなあなたの横顔に見えてしまったのだ。 今すぐにで…

夏の暑さに沈む背中

ふと見上げる あの日もこんな空だった ふと俯く あの日もこの道だった 気がつけば季節は移ろい また夏が来る 夏に、なる 溶けてひとつ、またひとつ、 夏になる

透明の

私を包むそれは包んでいるというよりもまるで 私を独り占めしているみたいだった。 覗き込んだあなたの顔。 偶然捉えたスマートフォンのシャッター。 レンズ越しにあなたの瞳に映る今にも泣き出しそうな私の顔。 握りしめたあなたの手に伝える「まだ帰りたく…

満月

ふと見上げると、満月だった。 ただぼんやりと「今日は満月なのか」と思った。 先程まで貴方に触れていた右手には、 着替えなどの入ったカバンの取っ手が 握られている。 手が悴む寒さに舌打ちしながら、 貴方のいない右側を見ないふりをした。 まだ、そこに…

光る魚

金曜の夜、私は魚になる。 両手のつめに重ねられた きらきらの淡いあおみどりの乳白色が 私を光る魚にしてくれる。それはまるで、鱗のよう。 昔読んだ鱗がにじいろのさかなの絵本を思い出す。 あの魚もきっと、きれいなきらきらなのだ。光る魚は自由に、好き…

震え。

あなたの声に大きくふるえる。身体ではなく、心が。 溺れてしまいそうになる。降り積もるあなたの声に、溺れそうになる。降り積もるのはやがて溶ける雪ではなく、 私を絞め殺す柔らかな綿。あなたのその優しい感情の光の波は大きく渦を巻いて私を呑み込む。…

貴方の色

貴方の色が好きだ。 それは誰にもない、貴方の色。 貴方だけの色。 なにいろでもないのだ。 その色は紛れもなく、貴方の色なのだ。 貴方に私は何色に見えているのだろうか。

息ができないほど

静かに息を潜めている。 私の心の奥で静かに息を潜めているそれは、生まれてからずっと一緒に来たそれは心の奥でずっとその時が来るのを覗っていた。 そう、私の心の中から「外」に出る日を。 私は知っている。 それが何であるかを。 私は知っている。 それ…

この枷は、私が懇願してつけてもらったものだ。 唯一、この枷は彼方と此方を繋いでいる。 この枷のおかげで彼方へと行ける。 しかし、この枷の持ち主は、いつでも突き放せるのだ。 何故なら私自身が彼方から突き放されているので、この枷さえ捨ててしまえば…