満月
ふと見上げると、満月だった。
ただぼんやりと「今日は満月なのか」と思った。
先程まで貴方に触れていた右手には、
着替えなどの入ったカバンの取っ手が
握られている。
手が悴む寒さに舌打ちしながら、
貴方のいない右側を見ないふりをした。
まだ、そこにいるような気がして。
左手,瞳,唇,吐息,笑顔,寝顔,香り
やっぱりまだ、
そこにいるような気がした。
振り向くと、ただ寂しげに
私の影だけがそこにいた。
満月に照らされた私の影だけが、そこに。
月が満ち欠けするように
私の心も満ち欠けするのだ。
貴方がいないこの瞬間
ただの暗やみが広がる。
今日は満月だというのに、真っ暗い。
けれど時は必ず流れ、
月は再び満ち満ちと輝く。
またその時まで。