肉を噛みたい。

おもにいぬになりたいひとのしをかいてます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

水底のカヌー

1. あれはいつの出来事だったのだろうか。りっちゃんと二人であのカヌーを見たのは。 昼と夜が入り交じった空にクタクタに溶けてしまいそうな一艇のカヌーは、まるで私達など、ここに居ないかのようにゆっくり、ゆっくりと空を滑っていった。 「沙希、あれ…

しし座流星雨

小一の、今頃のちょうど真夜中。 よく父親と母親の2人とも外出していて家に居なかった事があった。しし座流星群のピークを見極めに夜中に外出していたようだった。しかし私は夜中に1人でトイレに行けないような、まだまだ両親にベッタリ甘えていた頃だったの…

はみがき

朝起きて歯を磨く 朝ごはん食べて歯を磨く 昼ごはん食べて歯を磨く 夜ごはん食べて歯を磨く 毎日繰り返す大切なこと 朝起きておはようと言う 行ってきますと言う 仕事から帰ったらただいまを言う そして、おかえりと言う 寝る前にはおやすみ、と。 全部大切…

水飴

口の中で くっついて 絡まって 歯が抜けそう 喉の奥に 絡みついて 息が出来ない ずっと もう ずっとだ

混沌

混沌として整然とした感情に 押し潰されて 流れていく 貴方を諦めたくない と 口にする事さえ ままならない 今の自分に 貴方を掴む 勇気がない のに 離したくない のに 逃げ出したい のに 逃げたくない 簡単なことだ ただただ 好きなのだ たった一人のあなた…

しがふたりをわかつとき

いつかその時が来たら と君が言う その時が来たら笑って見送ってくれ 君が泣くと哀しいから 君はなんて大馬鹿野郎なのでしょう 君の死は悲しい 君の死は尊い 君の死は愛おしい 君の死は 死にたくなる

あの日の林檎

甘く甘く そして苦い 林檎 初めて私を見つけてもらった 苦くて甘い、居場所をくれた あの日くれた林檎は今もそうっと包んで宝箱 奥底に滲み出す猛毒の林檎の甘い甘い汁 宝箱は甘い猛毒の汁でだんだんくすんでいく じわり じわり じわ り じわ り じわっ 林檎…

いつかのラブレターは燃やしてしまった

いつかのラブレターは燃やしてしまった あんなに想いを込めて書いたのに 燃やしてしまった 耐えられなかったんだと思う 自分の想いの重さに 自分の調子の良さに 一生 というの時間の長さに ビビって引っ込めた左手 覚悟が決まらない それでも 絶えず貴方を思…

眩い朝日に燃え尽きる背中

まだ温かい布団の中、ひとり貴方を思い出す。 燃え盛る炎の中でただただ私を抱きしめている。 体の全てが燃えちぎれて 動かないはずの両手で抱きしめ合う。 途切れる呼吸 繋ぐ互いの口付け 視界を曇らす涙 確かに感じた互いの体温 ひとつの大きな炎となって …

夜明の女

働き蟻の蠢く彼は誰時、工場の鈍色の灯りと白い白い煙に炙り出された美しくも不気味な空には、鋭い三日月が心許なさそうに微笑んでいた。 突然、心を掴まれた気がした。 なぜだか、鋭いあの三日月が寂しそうなあなたの横顔に見えてしまったのだ。 今すぐにで…

目玉焼きになりたい

目玉焼きになりたい 私と2人写る写真はまるで目玉焼き 2人して真白のTシャツ 逃げる笑顔と それでも嬉しそうな笑顔とが くっついてとけあって まるで双子卵の目玉焼き きみときみとは溶け合わず しろみだけが溶け合って一つに なったきがした ただずっと 溶…