肉を噛みたい。

おもにいぬになりたいひとのしをかいてます。

物語

水底のカヌー

1. あれはいつの出来事だったのだろうか。りっちゃんと二人であのカヌーを見たのは。 昼と夜が入り交じった空にクタクタに溶けてしまいそうな一艇のカヌーは、まるで私達など、ここに居ないかのようにゆっくり、ゆっくりと空を滑っていった。 「沙希、あれ…

夜明の女

働き蟻の蠢く彼は誰時、工場の鈍色の灯りと白い白い煙に炙り出された美しくも不気味な空には、鋭い三日月が心許なさそうに微笑んでいた。 突然、心を掴まれた気がした。 なぜだか、鋭いあの三日月が寂しそうなあなたの横顔に見えてしまったのだ。 今すぐにで…

稲妻

視界の端を小さな稲妻が走り抜けた 小さな、まるでトビウオのような一瞬の けれど強かな光だ その瞬間に思い出す あなたの眼が私を貫いたあの光 あれと似ていた だから急に、苦しくなって 愛おしさが込み上げた 苦しいと気持ちいいは紙一重だった その息苦し…

透明の

私を包むそれは包んでいるというよりもまるで 私を独り占めしているみたいだった。 覗き込んだあなたの顔。 偶然捉えたスマートフォンのシャッター。 レンズ越しにあなたの瞳に映る今にも泣き出しそうな私の顔。 握りしめたあなたの手に伝える「まだ帰りたく…

その手に触れるたび、 その手に触れられるたび、 殺されたいと思う。 ただ一人、貴方だけに。 それが叶わないのなら 私の気の済むまでその手で 私の髪を撫で付けていて欲しい。 たぶん、すごく、 あいしている貴方だけに。

流るる

全てはこの川を通る。 大きな川だ。 何もかも流れてゆく。 魚も蟹も草木も、舟も人も、全て。 色も。 朝陽が登って、夕陽が沈む。 それだけのあいだに、たくさんの色が流れる。 朝陽や夕陽は、ほんとうは だれの、涙なのだろう。 零れ落ちる光のつぶは、まる…

震え。

あなたの声に大きくふるえる。身体ではなく、心が。 溺れてしまいそうになる。降り積もるあなたの声に、溺れそうになる。降り積もるのはやがて溶ける雪ではなく、 私を絞め殺す柔らかな綿。あなたのその優しい感情の光の波は大きく渦を巻いて私を呑み込む。…

いきている

それはまるで雨のように私の心を濡らし、まるで夏の昼下がりの心地よい風が昼寝をする私の顔を撫でるように優しく撫でる。時には雷のように私の心を震わせ、時には真夏の太陽のように私の心を照り尽す。 雨粒に揺れる木の葉や、風にあおられる切りすぎた前髪…

息ができないほど

静かに息を潜めている。 私の心の奥で静かに息を潜めているそれは、生まれてからずっと一緒に来たそれは心の奥でずっとその時が来るのを覗っていた。 そう、私の心の中から「外」に出る日を。 私は知っている。 それが何であるかを。 私は知っている。 それ…

うちゅうりょこうにいくそのひまで

きょうは2×××ねん○がつ△にち うちゅうりょこうまで、あと1にちです ぼくはあしたうちゅうにいきます みんなはおとうさんやおかあさんといっしょにいくといっていましたが、ぼくはねこのコゴローといっしょにいきます うちゅうりょこうはあしただというのに、…

雨がふるのをまっています。

孤独になりたい寂しがり屋は大草原のど真ん中ぽつんと一つそびえ立つ石造りの塔のてっぺんで、ひとり、雨がふるのをまっています。 待てど暮らせど雨はふらない。 いつまでも心地よく晴れた空。 涼しい風。優しい動物たちの声。 虫だってそこかしこに自由に…